咀嚼筋 その1 咬筋

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下顎骨を引き上げて上下の歯をかみ合わせる、いわゆる咀嚼筋には4種類あります。咬筋、側頭筋、内側翼突筋、外側翼突筋の4種類ですが、概して単純な形の筋肉ではなく、作用も色々あります。

ほっぺたの後ろ、耳の前、解剖学的には耳下腺咬筋部といわれる辺りは、咀嚼時に触ると硬くなることから、筋肉のあることが分かります。これが咬筋です。

咬筋、ラテン語 m. masseter (マセター) は咬むことを意味します。英語の masticate も同語源ですが、改まった言い方になります。普通にはbite とか、chew を使います。

解剖学的には、板状の筋肉で、大きな浅部と小さな深部に分かれています。浅部は起始が頬骨弓のの前2/3、停止が下顎骨咬筋粗面下部、深部は起始が頬骨弓の後ろ2/3で、停止が下顎骨咬筋粗面上部となります。三叉神経の第三枝である下顎神経の枝の一つである咬筋神経に支配されています。

浅部、深部とでは走行が少し異なります。上の図で青い矢印で示してありますが、浅部が収縮すると停止部の下顎角から起始部の頬骨弓に向かって斜め上前方へ下顎骨が引き上げられます。また深部が収縮すると斜め上後方へ引き上げられます。すなわち、一つの筋でも働く部位によって作用が異なるのです。そこで次のような国家試験の問題が成立します。

下顎の後方運動に関与する筋は次のいずれか
(1) 内側翼突筋
(2) 外側翼突筋
(3) 側頭筋
(4) 咬筋深層
(5) 咬筋浅層

a (1)(2) b (1)(5) c (2)(3) d (3)(4) e (4)(5)

次回、側頭筋の記事を出しますが、側頭筋にも下顎骨を後ろに引く筋束があります。したがって正解はd ということになります。

咬筋には実は、深層と浅層の他にも頬骨下顎筋のような筋があることもあり、比較解剖学的にはかなり複雑な筋です。これは動物からヒトに至る進化の中で、さまざまな形のものが存在し、それらの痕跡が人にも残っているからです。ちなみに咬筋は口を大きくあけて前歯で他の動物を食いちぎるような、たとえばライオンやヒョウのような肉食類では発達せず、逆に草や葉を食べて臼歯部を前後左右に動かすような動物で発達しています。



この記事へのコメント

伊太利屋次郎
2008年05月28日 12:55
昔,解剖学に手を染めた頃です。農工大の家畜解剖でヒト,家畜の咬筋の層分化を研究されていた教授を思い出しました(名前は思い出せません)。ヒトでも4層とかに分かれるとか,解剖学会地方会で聴いたことがあります。ある研究者が「どうやったらそのような層を分けられるのか?」と質問したら「筋がここ掘れワンワンと語りかけるのです」と答えていました。それから解剖実習で10数年を経験した頃に,あの時の答弁が何となく分かるようになっていました。学生からの「どうやったらそのように剖出できるのか?」に「神経が,動脈がここ掘れワンワンと語りかけてくる」と答えるようになっていました。
ところで,この咬筋の層分化と食性の関係は,今はどうなっているのでしょうか?
松戸解剖
2008年05月29日 10:37
伊太利屋次郎様
ありがとうございました。うーん、あれは吉川先生でしたね。その答弁は覚えていませんでしたが、仕事自体がなぜか話題になりましたね。やはり経験の裏打ちと年齢?が必要なのでしょうか。次郎さんも名人の域に達したのですかね。咬筋の層分化と食性・・・、不勉強でよく分かりません。

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  • プラダ トート

    Excerpt: 咀嚼筋 その1 咬筋 森を歩こう人体編/ウェブリブログ Weblog: プラダ トート racked: 2013-07-05 18:27